退職金課税の見直し
2023-08-15
政府は終身雇用を前提とした退職金課税を見直しするようです。
具体的な見直し方法や時期は年末に開かれる税制調査会で
議論されます。
現状の制度と見直し予想を確認してみましょう。
【1】退職金に税金はかかる?
退職時に一括で受け取った退職金は、
退職所得として所得税および復興特別所得税と住民税がかかります。
ただし退職所得には税負担を軽減する仕組みが3つ設けられています。
そのため税金が高額になりにくい仕組みになっています。
【2】税負担を軽減する仕組み
(1)退職所得控除
退職金は基本的に勤続年数が長くなるほど増えていきますが、
そのうち1年あたり40万円は課税されません。
例えば勤続10年で退職した場合、40万円×10年で400万円までは非課税、
20年なら800万円(40万円×20年)までは非課税となります。
非課税金額を超えた部分にだけ税金がかかります。
そして勤続20年を超えると、この非課税枠が1年あたり40万円から70万円に拡大します。
例えば勤続30年で退職すると、
最初の20年分で800万円、最後の10年分で70万円×10年=700万円、
合計1500万円までの退職金には税金がかかりません。
勤続40年だと後半20年分で1400万円(70万円×20年)となり、
合計2200万円(=800万円+1400万円)までは税金がかからないことになります。
(2)1/2課税
退職金が(1)の退職所得控除の額を超えた部分には税金がかかりますが、
その全部に税金をかけるのではなくて、1/2にしたうえで税金を計算します。
例えば勤続20年で退職金が1000万円の場合、
退職所得控除額800万円を差し引いた残り200万円が課税対象の退職所得になり、
これを1/2の100万円にしてから税率をかけて税額を計算します。
(3)分離課税
給与収入などは他の収入と合算したうえで税率を適用する「総合課税」となるため、
他の収入で金額が大きくなると累進税率により税率が高くなって税負担が重くなります。
これに対して、退職金は「退職所得」として別個に税額を計算するため(分離課税)、
退職金以外の収入があったとしても税負担には影響しません。
【3】短期間で退職した場合の注意点
(1)役員として勤務して5年以内に退職した場合
この場合の退職金は、「特定役員退職手当等」に分類されます。
5年以内の短期在籍の場合、
退職所得控除額を差し引いた額が課税退職所得となります。
(所得金額を1/2にすることはできません。)
(2)従業員として勤務して5年以内に退職した場合
この場合の退職金は「短期退職手当等」に分類されます。
退職金から退職所得控除額を差し引いた金額が300万円以下か、
300万円を超えているかによって取扱いが異なります。
①退職金から退職所得控除額を差し引いた金額が300万円以下
(退職金-退職所得控除額)×1/2
②退職金から退職所得控除額を差し引いた金額が300万円超
150万円+(退職金-(300万円+退職所得控除額))
上記の算式で課税退職所得を計算します。
【4】税制の見直しの焦点(令和5年8月12日・日本経済新聞の記事を参照)
勤続20年超の控除額をどのように扱うかが焦点となりそうです。
具体的な見直し方法は決まっていませんが以下のようなパタ-ンが
想定されます。
①20年超の控除額年70万円を一律で年40万円(20年以下の控除額)にそろえる
②20年目までは年40万、21年目以降は年40万円と年70万円の中間の年55万円とする
③一律で年55万円とする
あくまでも想定です、年末の税制調査会の動向を注視したいと思います。
見直し内容が確定してからでも決して遅くはないので、
自社に当てはめたときに実際どのように影響するのか、
正確な情報に基づいてしっかり見極めるようにしましょう。
山口会計 山口